冬に仕込んだ日本酒をすべての品質をチェックする酒蔵恒例の夏の行事が、「初呑切り」。
この日は、ふるさと但馬に帰っておられる岸本義弘杜氏さんも久しぶりに元気なお顔をみせてくれ、酢蔵、酒蔵のメンバーも集まって、家族みんなで食事をするのが慣わしです。
しかし、60年にわたりうちの蔵の歴史をともに歩んでくださった岸本杜氏さんが、高齢のため、とうとう引退することになりました。
日本酒「雑賀」の味を築いてこられた岸本杜氏。ふるさとの但馬から毎年、軽トラックで蔵入りし、毎年10月末から春までの半年間は住み込みで昼夜問わずの酒造り。食事も家族と同じ釜の飯をともにしてきました。
洋子ママが雜賀に嫁ぐより前から蔵におられ、もちろん、主人が生まれた時のこともご存じです。その人生の大半を、雜賀の蔵とともに歩いてくださいました。
蔵が移転を余儀なくされた苦しい時期もともに支えてくださり、酒蔵の基礎を築き、かつて以上に活気づけてくださいました。
御年83歳と思えないほどがっちりとした体に大きなふくよかな手、やさしいお顔には、誠実で勉強熱心、己に厳しい人柄があふれていました。たくさんのことをみんなが教えていただいてきたのです。
岸本杜氏さんは、この60年を振り返りながら、「ほんとに長い間お世話になりました」と話してくださり、会長、主人もこみ上げるものを押さえつつ、岸本杜氏さんの労をねぎらい、支えてくださったことに心から感謝を伝えます。
この日は、次期杜氏を勤めてくださる、同じ但馬杜氏の今田義男さんも来てくださいました。
今田さんは御年72歳。杜氏歴も38年と長く、全国新酒鑑評会で4度の金賞、5度の入賞のキャリアをもつベテランです。
「岸本杜氏の名を汚さぬよう、精進してお酒づくりに邁進します」と、力強くあいさつしてくださいました。
雜賀の蔵のことをよくよく考えて引き継ぐことを決めてくださった、その真摯で誠実な人柄にふれ、次期の酒づくりを内心、心配していた蔵人や家族を、どれだけほっとさせたでしょう。
お酒造りにあふれる情熱を注がれている今田杜氏さんの熱意と言葉に、みなの笑顔と拍手がこぼれました。
岸本杜氏さん、これまでほんとにご苦労様でした。そしてありがとうございました。このHPができたら、ふるさと但馬でみてくださいね。
雜賀の蔵で醸してくださった最後のお酒。
みな、それぞれの想いを胸に、乾杯しました。